都内の私大で社会学を専攻していた元文系院生が就社社会に参入してからの記録

都内の大学院で社会学を専攻していた元文系院生が、修論を何とか書いて就社社会にいかに馴染んでいくのかを自身で観察するブログです。

教育社会学に関連するブックリスト(*不定期更新)

数年前に、すしむら(藤村達也)さんが書いた教育社会学のブックリスト記事を読み、学部生の頃にこのような指南の記事があったらよかったのになぁ、と思っていました(もちろん、自分で書籍や論文を探すのも楽しいですし、そうした営みも大事ですが...)。
そうした思いもあり、自分もブックリストを作ってみようと思い、人知れずこのブログで細々と書いていました。ですが、先日すしむらさんが記事をリニューアルしていたこともあり、私も勝手に後を追い、このたび記事を大幅にリニューアルすることにしました(イェーイ👐)

 

本記事におけるブックリストは、以下のようなゆるやかな基準のもとで作成しています。

  • 書籍は、新書や文庫に限定しません。
  • 価格が1,000円程度であるかどうか*1
  • 書籍の分類は、日本教社会学会の学会報告要旨収録などを参考にした筆者の独自のものです*2
  • 当該書籍の本題が教育に関わるものではなくても、当該書籍で1章以上のの扱いがあり、かつ本リストの分類上有益であると判断した場合は、本リストに収録しています。
  • 価格が高騰しているなどで、古本での入手があまりにも難しい場合を除いて、絶版や品切れの書籍も選んでいます。
  • 教育社会学に関わりがある内容でしたら、異なる分野の書籍や、ルポルタージュやノンフィクションの書籍なども一部で選んでいます。
    ルポルタージュやノンフィクション書籍などは*マークを付け、太字・斜字で表します。(教育)社会学以外の書籍には、*マークを付けています(抜けアリ)。
  • リンクは基本的に出版社のサイトにしていますが、出版社のサイトページが見つからない場合は、Amazonのサイトとリンクしています。

筆者が読んできた書籍を中心にリストを作成しましたので、見落としている書籍も多々あるかと思います。「このテーマなら、この本も欠かせない!」というものがありましたら、ご教示くださると助かります。

総論・概論

日本の教育に関わるさまざまな現象やデータ、知識について網羅的かつ説明的に著しています。

苅谷(1998→2005)は、もともとは『毎日中学生新聞』に1997年から半年間掲載していた文章を講談社より単行本化したものです。内容は、隠れたカリキュラムや階層と教育的達成の関係、教師の仕事、生徒という地位・役割など。新聞に掲載されていた文章だけあって、とても読みやすい文章です。「確かに!」「あの時は、こういうことだったのか」など、これまでの学校経験を振り返りながら読むことのできる、読者のペース配分がしやすい本になります。

ただ、内容が少し古いところもありますので、中澤(2021)や広田(2022)で内容を補うのがいいかもしれません。広田(2004,2009)は、やや専門的ですが、特に『教育』の方は20年経ったいまでも色褪せない内容かと思います。

中澤(2018)は、以下に挙げる書籍のなかでもあまり見かけない高等教育論や収益率、教育政策とEBPMにも言及している貴重で、欲張りな書籍になります。松岡編(2021)や小松・ラブリー(2021)は、手堅い内容ですので、今の教育の動向を把握したい大人でも、読み応えがあります。

学校史・教育史

著者 タイトル 出版社 レーベル
山住正己 『日本教育小史――近・現代』 1987 岩波書店 岩波新書_363
木村 元 『学校の戦後史』 2015 岩波書店 岩波新書_1536
小国喜弘 『戦後教育史――貧困・校内暴力・いじめから、不登校・発達障害問題まで』 2023 中央公論新社 中公新書_2747

誰でも行くこと(就学・通学すること)が当たり前になった近代の学校と、そこで営まれた教育の形成、成熟、揺らぎが、戦後日本においてどのような経過をたどったのか、木村(2015)と小国(2023)より理解できるかと思います。


近代社会システムのうちの教育

子どもの貧困,若者と貧困,貧困から社会的排除

著者 タイトル 出版社 レーベル
阿部 彩 『子どもの貧困――日本の不平等を考える』 2008 岩波書店 岩波新書_1157
阿部 彩 『弱者の居場所がない社会――貧困・格差と社会的包摂』 2011 講談社 講談社現代新書_2135
阿部 彩 『子どもの貧困Ⅱ――解決策を考える』 2014 岩波書店 岩波新書_1467
*青砥 恭 『ドキュメント高校中退――いま、貧困がうまれる場所』 2009 筑摩書房 ちくま新書_809
朝日新聞取材班 『子どもと貧困』 2016
→2018
朝日新聞出版 朝日文庫
*鳫 咲子 『給食費未納――子どもの貧困と食生活格差』 2016 光文社 光文社新書_842
*保坂 渉・池谷孝司 『子どもの貧困連鎖』 2012
→2015
光文社
→新潮社
新潮文庫
宮本みち子 『若者が《社会的弱者》に転落する』 2002 洋泉社 洋泉社新書y_074
宮本みち子 『若者が無縁化する――仕事・福祉・コミュニティでつなぐ』 2012 筑摩書房 ちくま新書_947
*仁藤夢乃 『女子高生の裏社会――「関係性の貧困」に生きる少女たち』 2014 光文社 光文社新書_711
*仁藤夢乃 『難民高校生――絶望社会を生き抜く「私たち」のリアル』 2014
→2016
英治出版
筑摩書房
ちくま文庫
荻上チキ 『彼女たちの売春(ワリキリ)』 2012
→2017
扶桑社
→新潮社
新潮文庫
*山野良一 『子どもの最貧国・日本――学力・心身・社会におよぶ諸影響』 2008 光文社 光文社新書_367
*山野良一 『子どもに貧困を押しつける国・日本』 2014 光文社 光文社新書_718
*湯浅 誠 『「なんとかする」子どもの貧困』 2017 角川書店 角川新書

 

教育による選抜、社会への配分

著者 タイトル 出版社 レーベル
天野郁夫 『教育と選抜の社会史』 1982
→2006
筑摩書房 ちくま学芸文庫
麻生 誠 『日本の学歴エリート』*3 1991
→2009
玉川大学出版部
講談社
講談社学術文庫_1974
竹内 洋 『学歴貴族の栄光と挫折』 1994
→2011
講談社 講談社学術文庫_2036
竹内 洋 『立志・苦学・出世——受験生の社会史』 1991
→2015
講談社 講談社学術文庫_2318
斉藤利彦 『試験と競争の学校史』 1995
→2010
平凡社
講談社
講談社学術文庫_2043
苅谷剛彦 『大衆教育社会のゆくえ――学歴主義と平等神話の戦後史』 1995 中央公論新社 中公新書_1249
苅谷剛彦 『教育と平等――大衆教育社会はいかに生成したか』 2009 中央公論新社 中公新書_2006
広田照幸 『陸軍将校の教育社会史――立身出世と天皇制 上』 1997
→2021
筑摩書房 ちくま学芸文庫
広田照幸 『陸軍将校の教育社会史――立身出世と天皇制 下』 1997
→2021
筑摩書房 ちくま学芸文庫
本田由紀 『軋む社会』 2008
→2011
河出書房新社 河出文庫
本田由紀 『社会を結びなおす――教育・仕事・家族の連携へ』 2014 岩波書店 岩波ブックレット_899
本田由紀 『もじれる社会――戦後日本型循環モデルを超えて』 2014 筑摩書房 ちくま新書_1091
本田由紀 『「日本」ってどんな国?――国際比較データで社会が見えてくる』 2021 筑摩書房 ちくまプリマー新書_386
小熊英二 『日本社会の歴史――雇用・教育・福祉の歴史社会学』 2019 講談社 講談社現代新書_2528

 

能力主義メリトクラシー

著者 タイトル 出版社 レーベル
桜井智恵子 『子どもの声を社会へ――子どもオンブズマンの挑戦』 2012 岩波書店 岩波新書_1353
中村高康 『暴走化するメリトクラシー――教育と現代社会の病理』 2018 筑摩書房 ちくま新書_1337
本田由紀 『教育は何を評価してきたか』 2020 岩波書店 岩波新書_1829
*神代建彦 『「生存競争」教育への反抗』 2020 集英社 集英社新書_1029E

 

教育と格差

社会階層と学力・教育達成、社会移動

著者 タイトル 出版社 レーベル
苅谷剛彦・志水宏吉・清水睦美・諸田裕子 『調査報告 「学力低下」の実態』 2002 岩波書店 岩波ブックレット_578
苅谷剛彦 『学力と階層』 2008
→2012
朝日新聞出版社 朝日文庫
志水宏吉・伊佐夏実・知念 渉・芝野淳一 『調査報告 「学力格差」の実態 』 2014 岩波書店 岩波ブックレット_900
吉川 徹 『学歴分断社会』 2009 筑摩書房 ちくま新書_772
吉川 徹 『日本の分断――切り離される非大卒若者(レッグス)たち』 2018 光文社 光文社新書
松岡亮二 『教育格差――階層・地域・学歴』 2019 筑摩書房 ちくま新書_1422
松岡亮二・髙橋史子・中村高康 『東大生、教育格差を学ぶ』 2023 光文社 光文社新書
*齋藤貴男 『機会不平等』 2000
→2004
→2012
文藝春秋
岩波書店
岩波現代文庫
志水宏吉 『ペアレントクラシー――「親格差時代」の衝撃』 2022 朝日新聞出版 朝日新書_871
山田昌弘 『希望格差社会――「負け組」の絶望感が日本を引き裂く』 2004
→2007
筑摩書房 ちくま文庫
山田昌弘 『新型格差社会』 2021 朝日新聞出版 朝日新書_811

 

教育と移行(トランジション)

教育から労働へ

著者 タイトル 出版社 レーベル
阿部真大 『搾取される若者たち――バイク便ライダーは見た!』 2006 集英社 集英社新書_0361B
阿部真大 『働きすぎる若者たち――「自分探し」の果てに』 2007 NHK出版 生活人新書_221
玄田有史 『仕事のなかの曖昧な不安――揺れる若年の現在』 2001
→2005
中央公論新社 中公文庫
玄田有史・曲沼美恵 『ニート――フリーターでもなく失業者でもなく』 2004
→2006
幻冬舎 幻冬舎文庫_0195
児美川孝一郎 『若者はなぜ「就職」できなくなったのか――生き抜くために知っておくべきこと』 2011 日本図書センター ニッポンの教育問題
濱口桂一郎 『若者と労働――「入社」の仕組みから解きほぐす』 2013 中央公論新社 中公新書ラクレ_465
本田由紀内藤朝雄後藤和智 『「ニート」って言うな!』 2006 光文社 光文社新書_237
本田由紀 『教育の職業的意義――若者・学校・社会をつなぐ』 2009 筑摩書房 ちくま新書_817
*工藤 啓・西田亮介 『無業社会――働くことができない若者たちの未来』 2014 朝日新聞出版 朝日新書_465
今野晴貴 『ブラックバイト――学生が危ない』 2016 岩波書店 岩波新書_1602
*岩田弘三 『アルバイトの誕生――学生と労働の社会史』 2021 平凡社 平凡社新書_988

 

キャリア教育、職業教育、就職活動

著者 タイトル 出版社 レーベル
難波功士 『「就活」の社会史――大学は出たけれど…』 2014 祥伝社 祥伝社新書_384
*田中研之輔 『先生は教えてくれない就活のトリセツ』 2018 筑摩書房 ちくまプリマー新書
児美川孝一郎 『キャリア教育のウソ』 2013 筑摩書房 ちくまプリマー新書
児美川孝一郎 『夢があふれる社会に希望あるか』 2016 KKベストセラーズ ベスト新書
森岡孝二 『就活とブラック企業――現代の若者の働きかた事情』 2011 岩波書店 岩波ブックレット_805
*安田 雪 『大学生の就職活動――学生と企業の出会い』 1999 中央公論新社 中公新書_1462

 

教育と家族

ここの部分は、家事・子育てや少子化問題や保育園問題とそれら政策論議、多様な家族形成などを含めるとキリがないので、またいずれ別稿でまとめたいと思います。

教育する家族

著者 タイトル 出版社 レーベル
広田照幸 『日本人のしつけは衰退したか――「教育する家族」のゆくえ』 1999 講談社 講談社現代新書_1448
*鈴木 亮 『塾不要——親子で挑んだ公立中高一貫校受験』 2007 ディスカヴァー・トゥエンティワン ディスカヴァー新書
望月由起 『小学校受験——現代日本の「教育する家族」』 2022 光文社 光文社新書_1234

広田(1999)はすでに名著と化した気もしますね。個人的に、鈴木(2007)は、中学受験をしようか筆者が迷っていた(というよりも親に勧められた?)タイミングで読んだ思い出深い本です。改めて読み直すと、まさに教育する家族の奮闘ぶり(家族や親戚が1人の子どもの中学受験の合格にどれだけ動員され、尽力するのか)が平易な文章で著されている良書だと思います*4

 

子育て、虐待

著者 タイトル 出版社 レーベル
*末冨芳・桜井啓太 『子育て罰——「親子に冷たい日本」を変えるには』 2021 光文社 光文社新書_1143
*武田信子 『社会で子どもを育てる――子育て支援都市トロントの発想』 2002 平凡社 平凡社新書_162
*武田信子 『やりすぎ教育——商品化する子どもたち』 2021 ポプラ社 ポプラ新書_208

 

子ども・青年の誕生と拡散

著者 タイトル 出版社 レーベル
*河原和枝 『子ども観の近代——『赤い鳥』と「童心」の理想』 1998 中央公論社 中公新書_1403

 

ジェンダーと教育

著者 タイトル 出版社 レーベル
*打越さく良 『レンアイ、基本のキ――好きになったらなんでもOK?』 2015 岩波書店 岩波ジュニア新書_814
田中俊之 『男子が10代のうちに考えておきたいこと』 2019 岩波書店 岩波ジュニア新書_900

家族や子育て、セクシュアルマイノリティと切り離してリスト化すると、ここで挙げられる書籍は、性的同意などについて書かれている打越(2015)や、男性学の田中(2019)しかでてきませんでした。

 

マイノリティの教育保障とオルタナティブな教育

特別支援教育・(日本型)インクルーシブ教育

著者 タイトル 出版社 レーベル
安積純子・岡原正幸・尾中文哉・立岩真也 『生の技法[第3版]――家と施設を出て暮らす障害者の社会学』 1990
→1995
→2012
藤原書店
生活書院
 
茂木俊彦 『障害児と教育』 1990 岩波書店 岩波新書_131
茂木俊彦 『障害児教育を考える』 2007 岩波書店 岩波新書_1110
*柘植雅義 『特別支援教育――多様なニーズへの挑戦』 2013 中央公論新社 中公新書_2218
*小笠原 毅 『学校から拒否される子どもたち――就学時健診と就学指導』 1990 岩波書店 岩波ブックレット_177
*小笠原 毅 『就学時検診を考える』 1998 岩波書店 岩波ブックレット_465
*小笠原 毅編 『新版 就学時検診を考える――特別支援教育のいま』 2019 岩波書店 岩波ブックレット_991
*天畠大輔 『<弱さ>を<強み>に――突然複数の障がいをもった僕ができること』 2021 岩波書店 岩波新書_1898

新書などのかたちで供給が追いついていない印象です(実際に見かけることがないので、筆者が見落としている書籍がありましたら教えてください!)。また、障害といった社会的カテゴリーに対象を限定されない、社会的排除を経験する・しやすいさまざまなマイノリティも含み込んだインクルーシブ教育に関する包括的な書籍も、現在のところ刊行がありません。

特別支援教育しかりインクルーシブ教育(正確には「日本型インクルーシブ教育」?)が進められるなかで、誰も置いていかない社会と教育の構想は障害児に限らずさまざまなマイノリティや不利益を現在被っている子どもにとって重要な意義をもつはずです。しかし、その意義や、またその意義の構想の歴史を著した書籍は今のこところ不足しているのが実情のように思われます。

実際、数少ない書籍の一つである茂木(2007)は、2006年に国連総会で採択された「障害者の権利に関する条約」で示されるインクルーシブ教育の理念や、2007年の特殊教育から特別支援教育への制度移行を関連づけて論点整理しています。ただし、章立てから垣間見えるように発達保障論の視点が強く、この書籍だけで障害児教育やインクルーシブ教育を理解するのは、やや厳しいように感じます。また、柘植(2013)は国内におけるこれまでの障害児教育(特殊教育と特別支援教育)の制度・政策を通史する手堅い書籍になります(大学院の講義内容が基になったようです)。

なお、安積ほか(2012)や天畠(2021)では、養護学校や特別支援学校、大学で生活を送るにあたっての差別やディスアビリティの経験などを考察しています。

 

学校効果論――「効果のある学校」「力のある学校」など

著者 タイトル 出版社 レーベル
志水宏吉 『公立小学校の挑戦――「力のある学校」とはなにか』 2003 岩波書店 岩波ブックレット_611
志水宏吉 『学力を育てる』 2005 岩波書店 岩波新書_978
志水宏吉 『公立学校の底力』 2008 筑摩書房 ちくま新書_742
志水宏吉 『学力格差を克服する』 2020 筑摩書房 ちくま新書_1511
黒川祥子 『県立!再チャレンジ高校――生徒が人生をやり直せる学校』 2018 講談社 講談社現代新書_2477
*朝比奈なを 『ルポ 教育困難校』 2019 朝日新聞出版 朝日新書_724
*朝比奈なを 『進路格差――<つまずく生徒>の困難と支援に向き合う』 2022 朝日新聞出版 朝日新書_887

教育達成(学力)と社会階層の相関関係が国内でも指摘されてきた1990年代から2000年代初頭にかけて、志水は社会的に不利な立場に置かれる子ども(特に貧困層の子ども)への社会的支援が、「処遇の平等」を重視し、貧困層などの社会的カテゴリーにいる子どもへの差異的な処遇(今でいうところの「特別な支援」)を避ける日本的平等観によってなされていないことを指摘します。

そこで、欧米における人種や社会階層上で社会的不利な立場に置かれる子どもと、そうでない子どもの学力格差*5を解消する学校(Effective School/効果のある学校)の試みとその議論を援用・敷衍し、社会階層の低い子ども等に対して「すべての子どもがもつ、確かな学力を獲得する権利を実現させること」(志水 2020:37)―すなわち「学力保障」を実際におこなう国内の学校を観察・考察した内容をまとめたのが『学力を育てる』をはじめとする一連の書籍となります。

こうした「学力保障」の取り組みが、社会的な承認や卒業後に自立した社会生活を送るためのスキルや技能の獲得の実践*6と共に営まれていることをレポートしたのが、黒川(2018)です。

 中学で疎外されていた子どもたちの「受け皿」としての高校――これって、今までにない高校じゃないか。渡辺は、なんだかワクワクした。
 中学で勉強できなかった子たちが、勉強がわかるようになる学校、ソッポを向かれていた子どもたちがちゃんと受け入れられる学校。できなくてもやる気のある子たちが、中学校の内容でもいいから勉強がわかるようになって卒業していく、それが、「再チャレンジ」っていう意味なのか。(黒川 2018:185)

ちなみに、『学力を育てる』の30頁に掲載されている「カリキュラム改革の振り子」の図は、例えば小針(2018:153ー155)でも引用されているように戦後の教育カリキュラム史を理解する際に、頻繁に引用・紹介されており、また5頁の「学力の樹」も教育学・教職に関する参考書でしばしば目にするように思います。

 

エスニック・マイノリティと教育

著者 タイトル 出版社 レーベル
*朴 三石 『外国人学校――インターナショナル・スクールから民族学校まで』 2008 中央公論新社 中公新書_1970
*朴 三石 『知っていますか、朝鮮学校』 2012 岩波書店 岩波ブックレット_846
*田中 宏 『在日外国人 第三版――法の壁,心の溝』 2013 岩波書店 岩波新書_1429
*西山隆行 『移民大国アメリカ』 2016 筑摩書房 ちくま新書_1193
*菊池 聡 『<超・多国籍学校>は今日もにぎやか!――多文化共生って何だろう』 2018 岩波書店 岩波ジュニア新書_886
永吉希久子 『移民と日本社会――データで読み解く実態と将来像』 2020 中央公論新社 中公新書_2580

朴(2008)や菊池(2018)を除いて、エスニック・マイノリティと教育をテーマにした書籍の刊行は少ないように感じます。そのなかで、田中(2013)はエスニック・マイノリティが国内で直面してきた問題について、西山(2016)はアメリカ国内における移民政策に係る問題について、一部言及をしています。また、永吉(2020)は第5章の「移民受け入れの長期的影響」にて、移民二世の地位達成や教育達成について、移民一世の社会的統合や教育制度の設計の点より言及をしています。

教育社会学では、長らくニューカマーや、その子どもが経験するミクロ・マクロな教育問題について研究が進められています。そうしたなかで、現在の技能実習生の問題や入管法に関する議論なども含めた、エスニックマイノリティや移民と教育に関する書籍のさらなる刊行の需要は十分にあるように個人的には思います。

 

セクシュアル・マイノリティと教育

著者 タイトル 出版社 レーベル
上川あや 『変えてゆく勇気――「性同一性障害」の私から』 2012 岩波書店 岩波新書_1064
風間 孝・河口和也 『同性愛と異性愛』 2010 岩波書店 岩波新書_1235
森山至貴 『LGBTを読みとく――クィア・スタディーズ入門』 2017 筑摩書房 ちくま新書_1242
砂川秀樹 『カミングアウト』 2018 朝日新聞出版 朝日新書_666
*遠藤まめた 『みんな自分らしくいるためのはじめてのLGBT』 2021 筑摩書房 ちくまプリマー新書_377
神谷悠 『差別は思いやりでは解決しない ジェンダーやLGBTQから考える』 2022 集英社 集英社新書
*周司あきら・高井ゆと里 『トランスジェンダー入門』 2022 集英社 集英社新書

ごらんの通り、小見出しとリストアップした書籍がうまく適っていないように思われます。
現時点でも、個人のセクシュアリティにおける社会的な肯定や承認が峻別される社会構造が存在します。そうした現況を鑑みると、自らも含めたあらゆるセクシュアリティの人びとの性の多様性を尊重し、肯定・社会的に承認するための学び(性教育を含む学び)の機会や権利の保障が欠かせません。しかし、実際にそうした学びの保障がどのようにして実現されているのか、またはそのような学びの実現における課題や障壁にどのようなものがあるのかなどを論じる書籍の供給は、あまり多くないように思います。

そのなかで、児玉(2009)は七生養護学校(当時)で先進的に実践されていた性教育に対する右派によるバックラッシュとその裁判について、また風間・河口(2010)は第4章「ホモフォビア異性愛主義」の第1節「教育現場のなかの同性愛」で異性愛主義の学校現場や、当事者が直面するいじめ・自殺について言及をしています。

 

高等教育論

カリキュラム、内部質保証

著者 タイトル 出版社 レーベル
金子元久 『大学の教育力――何を教え、学ぶか』 2007 筑摩書房 ちくま新書_679

 

教育費用の負担、奨学金政策

著者 タイトル 出版社 レーベル
小林雅之 『進学格差――深刻化する教育費負担』 2008 筑摩書房 ちくま新書_758
大内裕和 『奨学金が日本を滅ぼす』 2017 朝日新聞出版 朝日新書_604
今野晴貴 『ブラック奨学金』 2017 文藝春秋 文春新書_1112
*堤 未果 『ルポ 貧困大国アメリカ』 2008 岩波書店 岩波新書_1112
*堤 未果 『ルポ 貧困大国アメリカⅡ』 2009 岩波書店 岩波新書_1225
*堤 未果 『社会の真実のみつけかた』 2011 岩波書店 岩波ジュニア新書_673
雨宮処凛入江公康・栗原 康・白井 聡・高橋若木・布施祐仁・マニュエル・ヤン 『経済的徴兵制をぶっ潰せ!――戦争と学生』 2017 岩波書店 岩波ブックレット_971

修学支援新制度が運用されるなど教育費負担の新たな政策が実行されるなかで、奨学金問題含めた国公私立大学の運営に係る政策動向を踏まえた教育費負担の考察をおこなう新書の刊行が、小林(2008)以降でみられないのが実情でしょうか。

アメリカの教育ローンや返済に伴う経済的徴兵の実態(取材当時)について、堤(2008)の第4章「出口をふさがれる若者たち」や堤(2009)の第1章「公教育が借金地獄に変わる」、堤(2011)の第1章(p.38-)や第2章「教育がビジネスになる」に詳しく書いてあります。

 

大学経営、大学改革;これまでの大学・これからの大学

著者 タイトル 出版社 レーベル
麻生 誠 『大学と人材養成——近代化にはたす役割』 1970 中央公論新社 中公新書_221
吉見俊哉 『大学とは何か』 2011 岩波書店 岩波新書_1318
吉見俊哉 『「文系学部廃止」の衝撃』 2016 集英社 集英社新書
広田照幸石川健治・橋本伸也・山口二郎 『学問の自由と大学の危機』 2016 岩波書店 岩波ブックレット_938
吉見俊哉 『大学は何処へ――未来への設計』 2021 岩波書店 岩波新書_1874
佐藤郁哉 『大学改革の迷走』 2019 筑摩書房 ちくま新書_1451
駒込 武編 『「私物化」される国公立大学』 2021 岩波書店 岩波ブックレット_1052
田中圭太郎 『ルポ 大学崩壊』 2023 筑摩書房 ちくま新書_1708

 

近代大学史

著者 タイトル 出版社 レーベル
天野郁夫 『大学の誕生(上)――帝国大学の時代』 2009 中央公論新社 中公新書_2004
天野郁夫 『大学の誕生(下)――大学への挑戦』 2009 中央公論新社 中公新書_2005
天野郁夫 『帝国大学――近代日本のエリート育成装置』 2017 中央公論新社 中公新書_2324

 

公教育の運営、教育と政治・行政

教育行政

著者 タイトル 出版社 レーベル
*青木栄一 『文部科学省――揺らぐ日本の教育と学術』 2021 中央公論新社 中公新書_2635
*新藤宗幸 『教育委員会――何が問題か』 2013 岩波書店 岩波新書_1455
*中嶋哲彦 『教育委員会は不要なのか――あるべき改革を考える』 2014 岩波書店 岩波ブックレット_908
*辻田真佐憲 『文部省の研究――「理想の日本人像」を求めた百五十年』 2017 文藝春秋 文春新書_1129

 

教育政策

著者 タイトル 出版社 レーベル
小針 誠 『アクティブラーニング――学校教育の理想と現実』 2018 講談社 講談社現代新書_2471

 

教育改革;あるべき教育の終わりなき論争

著者 タイトル 出版社 レーベル
森嶋通夫 『サッチャー時代のイギリス――その政治、経済、教育』 1988 岩波書店 岩波新書_49
*尾崎ムゲン 『日本の教育改革――産業化社会を育てた130年』 1990 中央公論新社 中公新書_1488
堤 清二・橋爪大三郎 『選択・責任・連帯の教育改革』 1999 岩波書店 岩波ブックレット_471
藤田英典 『教育改革――共生時代の学校づくり』 1997 岩波書店 岩波新書_511
藤田英典 『新時代の教育をどう構想するか――教育改革国民会議の残した課題』 2001 岩波書店 岩波ブックレット_533
藤田英典 『義務教育を問いなおす』 2005 筑摩書房 ちくま新書_543
藤田英典 『教育改革のゆくえ――格差社会か共生社会か』 2006 岩波書店 岩波ブックレット_688
藤田英典 『誰のための「教育再生」か』 2007 岩波書店 岩波新書_1103
*市川伸一 『学力低下論争』 2002 筑摩書房 ちくま新書_359
苅谷剛彦 『教育改革の幻想』 2002 筑摩書房 ちくま新書_329
苅谷剛彦・清水睦美・堀 健志・松田洋介・藤田武志・山田哲也 『検証 地方分権化時代の教育改革――脱「中央」の選択 ;地域から教育課題を立ち上げる』 2005 岩波書店 岩波ブックレット_662
苅谷剛彦・安藤 理・内田 良・清水睦美・藤田武志・堀 健志・松田洋介・山田哲也 『検証 地方分権化時代の教育改革――教育改革を評価する;犬山市教育委員会の挑戦』 2006 岩波書店 岩波ブックレット_685
苅谷剛彦・清水睦美・藤田武志・堀 健志・松田洋介・山田哲也 『検証 地方分権化時代の教育改革――杉並区立「和田中」の学校改革』 2008 岩波書店 岩波ブックレット_738
*阿部菜穂子 『イギリス「教育改革」の教訓――「教育の市場化」は子どものためにならない』 2007 岩波書店 岩波ブックレット_698
小川正人 『教育改革のゆくえ――国から地方へ』 2010 筑摩書房 ちくま新書_828
*佐藤 学・勝野正章 『安倍政権で教育はどう変わるか』 2013 岩波書店 岩波ブックレット_874
志水宏吉 『検証 大阪の教育改革――いま、何が起こっているのか』 2012 岩波書店 岩波ブックレット_833
*中嶋哲彦 『教育の自由と自治の破壊は許しません。――大阪の「教育改革」を超え、どの子も排除しない教育をつくる』 2013 かもがわ出版 かもがわブックレット_191
*永尾俊彦 『ルポ 大阪の教育改革とは何だったのか』 2022 岩波書店 岩波ブックレット_1063

 

カリキュラム・教育課程、入試改革

著者 タイトル 出版社 レーベル
紅野謙介 『国語教育の危機——大学入学共通テストと新学習指導要領』 2018 筑摩書房 ちくま新書_1354
紅野謙介 『国語教育——混迷する改革』 2020 筑摩書房 ちくま新書_1468
阿部公彦沼野充義納富信留・大西克也・安藤 宏・東京大学文学部広報委員会 『ことばの危機——大学入試改革・教育政策を問う』 2020 集英社 集英社新書_1024
石井洋二郎 『危機に立つ東大——入試制度改革をめぐる葛藤と迷走』 2020 筑摩書房 ちくま新書_1473
*鳥飼玖美子 『英語教育の危機』 2018 筑摩書房 ちくま新書_1298
*鳥飼玖美子 『10代と語る英語教育——民間試験導入延期までの道のり』 2020 筑摩書房 ちくまプリマー新書_357
寺沢拓敬 『小学校英語のジレンマ』 2020 岩波書店 岩波新書_1826

鳥飼(2020)は、臨教審以降の英語科における政策動向を分析しており、ちくまプリマー新書の枠を超える内容です。また寺沢(2020)も、第6章「現在までの改革の批判的検討」で英語科の政策論議の問題点に、第7章「どんな効果があったのか」で政策効果や教育効果についてそれぞれ言及をしています。

疲弊する学校と教員;評価、多忙・過労

著者 タイトル 出版社 レーベル
苅谷剛彦・諸田裕子・妹尾 渉・金子真理子 『検証 地方分権化時代の教育改革――「教員評価」』 2009 岩波書店 岩波ブックレット_752
今津孝次郎 『教師が育つ条件』 2012 岩波書店 岩波新書_1395
内田 良 『教育という病――子どもと先生を苦しめる「教育リスク」』 2015 光文社 光文社新書_760
*朝比奈なを 『教員という仕事――なぜ「ブラック化」したのか』 2020 朝日新聞出版 朝日新書_791
内田 良・上地香杜・加藤一晃・野村 駿・太田知彩 『調査報告 学校の部活動と働き方改革――教師の意識と実態から考える』 2018 岩波書店 岩波ブックレット_989
中澤篤史・内田 良 『「ハッピーな部活」のつくり方』 2019 岩波書店 岩波ジュニア新書_903
内田 良・広田照幸・髙橋 哲・嶋﨑 量・斉藤ひでみ 『迷走する教員の働き方改革――変形労働時間制を考える』 2020 岩波書店 岩波ブックレット_1021
内田 良・斉藤ひでみ・嶋﨑 量・福嶋尚子 『#教師のバトン とはなんだったのか――教師の発信と学校の未来』 2021 岩波書店 岩波ブックレット_1056
玉木正之・小林信也編 『真夏の甲子園はいらない――問題だらけの高校野球』 2023 岩波書店 岩波ブックレット_1077

 

教育と国家、学問と政治、科学と軍事

著者 タイトル 出版社 レーベル
茂木俊彦 『都立大学に何が起きたのか――総長の2年間』 2005 岩波書店 岩波ブックレット_660
*澤藤統一郎 『「日の丸・君が代」を強制してはならない――都教委通達違憲判決の意義』 2006 岩波書店 岩波ブックレット_691
*土肥信雄・藤田英典尾木直樹西原博史・石坂 啓 『学校から言論の自由がなくなる――ある都立高校長の「反乱」』 2009 岩波書店 岩波ブックレット_749
*田中伸尚 『ルポ 良心と義務――「日の丸・君が代」に抗う人びと』 2012 岩波書店 岩波新書_1362
*池内 了 『科学者と戦争』 2016 岩波書店 岩波新書_1611
*池内 了・小寺隆幸編 『兵器と大学――なぜ軍事研究をしてはならないか』 2016 岩波書店 岩波ブックレット_957
*池内 了・隠岐さや香・木本忠昭・小沼通二・広渡清吾 『日本学術会議の使命』 2021 岩波書店 岩波ブックレット_1051
*羽田貴史・広渡清吾・水島朝穂・宮田由紀夫・栗島智明 『危機の中の学問の自由――世界の動向と日本の課題』 2022 岩波書店 岩波ブックレット_1068

 

その他;学級、教科書、道徳教育、主権者教育、給食

著者 タイトル 出版社 レーベル
志水宏吉 『全国学力テスト――その功罪を問う』 2009 岩波書店 岩波ブックレット_747
*佐藤 学 『習熟度別指導の何が問題か 』 2004 岩波書店 岩波ブックレット_612
*石山久男 『教科書検定――沖縄戦「集団自決」問題から考える』 2008 岩波書店 岩波ブックレット_734
新井紀子 『ほんとうにいいの?――デジタル教科書』 2012 岩波書店 岩波ブックレット_859
*俵 義文 『戦後教科書運動史』 2020 平凡社 平凡社新書_963
*新藤宗幸 『「主権者教育」を問う』 2016 岩波書店 岩波ブックレット_953
*教育史学会編 『教育勅語の何が問題か』 2017 岩波書店 岩波ブックレット_974
*牧下圭貴 『学校給食』 2009 岩波書店 岩波ブックレット_751
*藤原辰史 『給食の歴史』 2017 岩波書店 岩波新書_1748

 

教育と経済(教育経済学)

教育投資と収益・効用

著者 タイトル 出版社 レーベル
*荒井一博 『学歴社会の法則――教育を経済学から見直す』 2007 光文社 光文社新書_330
橘木俊詔 『日本の教育格差』 2010 岩波書店 岩波新書_1258

 

教育問題;逸脱と非行

学校の「ともだち」との関係から/へ

著者 タイトル 出版社 レーベル
鈴木 翔 『教室内カースト』 2012 光文社 光文社新書_616
土井隆義 『「個性」を煽られる子どもたち――親密圏の変容を考える』 2004 岩波書店 岩波ブックレット_633
土井隆義 『友だち地獄――「空気を読む」世代のサバイバル』 2008 筑摩書房 ちくま新書_710
土井隆義 『キャラ化する/される子どもたち――排除型社会における人間像』 2009 岩波書店 岩波ブックレット_759
土井隆義 『つながりを煽られる子どもたち――ネット依存といじめ問題を考える』 2014 岩波書店 岩波ブックレット_903
森 真一 『ほんとはこわい「やさしさ社会」』 2008 筑摩書房 ちくまプリマー新書_074
森 真一 『友だちは永遠じゃない――社会学でつながりを考える』 2014 筑摩書房 ちくまプリマー新書_222
菅野 仁 『友だち幻想――人と人の〈つながり〉を考える』 2008 筑摩書房 ちくまプリマー新書_079
石田光規 『「友だち」から自由になる』 2022 光文社 光文社新書_1222
石田光規 『「人それぞれ」がさみしい――「やさしく・冷たい」人間関係を考える』 2022 筑摩書房 ちくまプリマー新書_392

教育現場や学校での人間関係、<ともだち>関係について考察する著作は、継続的に出版されています。
朝井リョウ『桐島、部活辞めるってよ』(2010→2012,集英社)で人口に膾炙した「スクールカースト」を考察した鈴木(2012)や、又吉直樹が愛読している*7ことでベストセラーになった『友だち幻想』(菅野 2008)、互いに傷つけない・かないよう高度に配慮しあう関係を「優しい関係」と指摘した土井の一連の著作(土井 2004,2008,2009,2014)が、これまで定番のラインナップでした。そして昨年には、石田(2022)の書籍も2冊刊行されています。


現代社会を(で)生きる若者

著者 タイトル 出版社 レーベル
宮台真司 『制服少女たちの選択――After 10 Years』 1994
→2006
朝日新聞出版 朝日文庫
宮台真司 『終わりなき日常を生きろ』 1995
→1998
筑摩書房 ちくま文庫
宮台真司 『まぼろしの郊外――成熟社会を生きる若者たちの行方』 1997
→2000
朝日新聞出版 朝日文庫
圓田浩二 『援交少女とロリコン男――ロリコン化する日本社会』 2006 洋泉社 洋泉社新書y_147
高原基彰 『不安型ナショナリズムの時代――日中韓のネット世代が憎しみ合う本当の理由』 2006 洋泉社 洋泉社新書y_151
赤木智弘 『若者を見殺しにする国』 2007
→2011
双風舎
朝日新聞出版
朝日文庫
雨宮処凛 『生きさせろ!――難民化する若者たち』 2007
→2010
太田出版
筑摩書房
ちくま文庫
*齋藤 環 『思春期ポストモダン――成熟はいかにして可能か』 2007 幻冬舎 幻冬舎新書_
山田昌弘 『なぜ若者は保守化したのか――希望を奪い続ける日本社会の真実』 2009
→2015
東洋経済新報社朝日新聞出版 朝日文庫
古市憲寿 『希望難民――ピースボートと「承認の共同体」幻想』 2010
→2022
光文社 知恵の森文庫・未来ライブラリー
古市憲寿 『絶望の国の幸福な若者たち』 2011
→2015
講談社 講談社+α文庫_256-2
中島岳志 『秋葉原事件――加藤智大の軌跡』 2011
→2013
朝日新聞出版 朝日文庫
土井隆義 『「宿命」を生きる若者たち――格差と幸福をつなぐもの』 2019 岩波書店 岩波ブックレット_1001
*稲田豊 『映画を早送りで観る人たち ――ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』 2022 光文社 光文社新書_1192

個人的には、浅野智彦さんや、牧野智和さん、羽渕一代さん、木村絵里子さんなどなど…の著作や論文のリストにしようかと思いました。なぜなら、底の抜けた社会(アノミーな社会)を軽やかに生きる若者を論じた宮台の議論*8から、格差社会の時代を生きる・生き抜くロスジェネ世代やゼロ年代の若者(当時)論の系譜に対する批判的応答や、溶解したとさえも指摘される<若者>をメルクマールとして論じる意義などを著す書籍(今回のブックリストに入る新書などの書籍)が、土井(2019)を除けば、現在までに続いていない印象だからです。もちろん、筆者自身のごく狭い観測範囲の意見ですので、今回のブックリストに入りそうな書籍がありましたら、教えてくださると非常に助かります。

山田(2009→2015)の議論は、パイプラインやいわゆる「既得権益」の瓦解が、むしろ性別役割分業規範を肯定するような旧来システムに一度でも入ってしまえば、経済的自由などを得られるという行動の選択や意識の醸成・揺り戻し=保守化をもたらしているのではないか、という議論をしています。

非行・少年犯罪

著者 タイトル 出版社 レーベル
芹沢一也浜井浩一 『犯罪不安社会――誰もが「不審者」?』 2006 光文社 光文社新書
*廣瀬健二 『少年法入門』 2021 岩波書店 岩波新書_1881
*鮎川 潤 『少年犯罪――ほんとうに多発化・凶悪化しているのか』 2001 平凡社 平凡社新書_080
*鮎川 潤 『新版 少年犯罪――18、19歳をどう扱うべきか』 2022 平凡社 平凡社新書_1013
*川名壮志 『記者がひもとく「少年」事件史――少年がナイフを握るたび大人たちは理由を探す』 2022 岩波書店 岩波新書_1941

少年法の改正や、いわゆる少年犯罪の「凶悪化」(とする社会的認識の高まり)などもあって、良質な新書の刊行が継続しているように思います。一方で、教育社会学での研究テーマ-例えば、少年犯罪のメディア報道による「心の闇」「凶悪化」言説の構築や、少年院等での矯正教育に関する書籍の刊行は、少ないように感じます。

いじめ・暴力・ハラスメント

著者 タイトル 出版社 レーベル
森田洋司 『いじめとは何か――教育の問題、社会の問題』 2010 中央公論新社 中公新書_2066
内藤朝雄 『いじめの構造――なぜ人が怪物になるのか』 2009 講談社 講談社現代新書_1984
今津孝次郎 『学校と暴力――いじめ・体罰問題の本質』 2014 平凡社 平凡社新書_
荻上チキ 『いじめを生む教室――子どもを守るために知っておきたいデータと知識』 2018 PHP研究所 PHP新書_1150
内田 良 『学校ハラスメント――暴力・セクハラ・部活動―なぜ教育は「行き過ぎる」か』 2019 朝日新聞出版 朝日新書_709
神戸大学人間発達環境学研究科ヒューマンコミュニティ創成研究センタージェンダー部門 『なくそう!スクール・セクハラ――教師のためのワークブック』 2009 かもがわ出版 かもがわブックレット_173
*片岡大右 『小山田圭吾の「いじめ」はいかにつくられたか――現代災い「インフォデミック」を考える』 2023 集英社 集英社新書_1152

「いじめの四層構造論」の森田(2001)や内藤(2008)の書籍はいじめ問題を読みとく際の必読書になりましたが、その後に続く書籍はどうでしょうか。そのなかで、片岡(2023)は、教育社会学におけるいじめの構築主義的アプローチを敷衍した考察をしています。

孤立・孤独、自殺(自死)、居場所

著者 タイトル 出版社 レーベル
渋井哲也 『ルポ 座間9人殺害事件――被害者はなぜ引き寄せられたのか』 2022 光文社 光文社新書_1178
渋井哲也 『ルポ 自殺――生きづらさの先にあるのか』 2022 河出書房新社 河出新書_054
*大空幸星 『望まない孤独』 2022 扶桑社 扶桑社新書_125
*末木 新 『「死にたい」と言われたら――自殺の心理学』 2023 筑摩書房 ちくまプリマー新書_428

子どもの自殺(自死)や、社会的孤立や孤独については社会で対処すべき問題としてコンセンサスが得られつつあるなかで、ルポルタージュや臨床現場で働く人間からの書籍は継続的に刊行されています。

教育の心理主義化・医療化

著者 タイトル 出版社 レーベル
*小沢牧子 『「心の専門家」はいらない』 2002 洋泉社 洋泉社新書y_057
*小沢牧子‣中島浩籌 『心を商品化する社会――「心のケア」の危うさを問う』 2004 洋泉社 洋泉社新書y_112
伊藤茂樹・広田照幸 『教育問題はなぜまちがって語られるのか?――「わかったつもり」からの脱却』 2010 日本図書センター どう考える?ニッポンの教育問題

 

不登校、ひきこもり、行方不明

著者 タイトル 出版社 レーベル
*石川結貴 『ルポ 居所不明児童――消えた子どもたち』 2015 筑摩書房 ちくま新書_1120
NHKスペシャル「消えた子どもたち」取材班 『ルポ 消えた子どもたち――虐待・監禁の深層に迫る』 2015 NHK出版 NHK出版新書_476
貴戸理恵 『「コミュニケーション能力がない」と悩むまえに――生きづらさを考える』 2011 岩波書店 岩波ブックレット_806
*末冨 晶 『不登校でも大丈夫』 2018 岩波書店 岩波ジュニア新書_881
*浅見直輝 『居場所がほしい――不登校生だったボクの今』 2018 岩波書店 岩波ジュニア新書_884
奥地圭子 『明るい不登校――創造性は「学校」外でひらく』 2019 NHK出版 NHK出版新書_593
石川良子 『「ひきこもり」から考える――<聴く>から始める支援論』 2021 筑摩書房 ちくま新書_1611
林 恭子 『ひきこもりの真実――就労より自立より大切なこと』 2021 筑摩書房 ちくま新書_1621
*おおたとしまさ 『不登校でも学べる――学校に行きたくないと言えたとき』 2022 集英社 集英社新書_1125

 

学校文化、ユースカルチャー

著者 タイトル 出版社 レーベル
難波功士 『ヤンキー進化論――不良文化はなぜ強い』 2009 光文社 光文社新書_397

まだまだ入れるべき書籍はあるのでしょうが、だらだら編集して公開する時機を逃しそうなので、ここで一旦公開をします。随時リストには書籍を入れていこうと思います。

*1:本当は2,000円くらいまで幅を取れば、さらにここで紹介できる書籍も増えるのですが、最近の新書の出版状況(より専門的な内容になり、ページ数が増え、1,000円を越えることも珍しくなくなりました)や、学生の経済状況、図書館にも担架されやすい新書・ブックレットという形態を鑑み、1,000円程度(1,500円くらいまでが1,000円「程度」の許容範囲でしょうか)としました。

*2:おそらく他にも適切な分類の仕方があったかと思いますが、ご容赦ください。

*3:文庫化に伴い、底本の第7章「現代日本におけるエリート形成」が割愛されてしまったのは個人的に残念です。

*4:当時はそんなこと考えていなかったですが。ちなみに、次男編もあるそうですが長男編の本書がおすすめ。

*5:なお、志水は個人間の差(偏差)ではなく、ある社会的集団間にある集団差(格差)のうち、社会的平等や公正などの社会的・普遍的価値規準のもと「是正する必要がある」と判断された教育に関わる達成=結果の集団差を教育格差とし、そのコアとなる格差が学力格差であると述べています。(志水 2020)

*6:もしかすると、読者の中には本書で紹介される一連の実践を、労働市場への包摂やアクティベーションとして想起する人もいるかもしれません。
例えば、大阪府大阪市の西成区にある府立西成高校では、「貧困を生み出さない『新たな社会』を創造し、その実現のために現実に対して働きかけていく主体を形成していくこと」を目的とした「反貧困学習」を実践する「格差の連鎖を断つチカラのある学校」として有名です。こうした貧困を生み出す社会構造と、貧困状態にある自らや周囲の境遇を結び付けて反貧困学習のカリキュラムと、黒川がレポートする学校の取り組み・生徒へのアプローチを比較すると、どのような違いがあるのでしょうか。

*7:2018年4月14日放送の「世界一受けたい授業」にて「10年前の本になぜ今脚光が? ――又吉直樹が読み解く話題の書「友だち幻想」」の回で紹介した。

*8:宮台は、高度に成熟しきった社会を自在=軽やかに生きる象徴として援助交際をする少女を持ち出しましたが、後に彼女らは総じていわゆる「メンヘラ化」したと当時の議論を総括しています。(宮台 1994→2006)